最高齢アスリートとしてニースに挑む不屈の鉄人、中川隆二さん

今年79歳の中川隆二さんはトライアスロン歴40年、これまでにコナ出場5回を果たしている。7年前にはバイク練習中にトラックと衝突し大怪我を負うも、そこから見事復活して2019年には再びコナを完走。そして今年、この不屈の鉄人は最高齢選手としてニースでの世界選手権に挑む。

Photo: Ryuji Nakagawa

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An English-language translation of this article is available here.

今年79歳の中川隆二さんはトライアスロン歴40年、これまでにコナ出場5回を果たしている。7年にはバイク練習中にトラックと衝突し大怪我を負うも、そこから見事復活して2019年には再びコナを完走。そして今年、この不屈の鉄人は最高齢選手としてニースでの世界選手権に挑む。

40年ほど前、テレビで偶然目にしたアイアンマンハワイ。遥か遠くまで広がるラヴァフィールドを背景に、一列に隊を成してハイウェイをバイクで疾走するトライアスリートたちの姿に、中川さんは強烈に惹きつけられた。「なんてかっこよくて優雅なスポーツだろうと思ったんです。トライアスロンってええなあと思って、自分もぜひやってみたいと思いました。日本ではまだトライアスロンという競技があることさえ誰も知らないような時代です」

35歳からランニングを始め、3時間でフルマラソンを完走する実力をつけ、さらなる挑戦の対象を求めている時期でもあった。日本でも大会がないかと調べていくうちに、鳥取県で行われていた皆生トライアスロンを知った。1981年に日本で最初に開催され、現在も続く日本最古の大会だ。強いランナーではあったものの、泳ぎはほとんどできなかった中川さんだったが、迷いなくスイム3km、バイク130km、ラン42.2kmのロングコーストライアスロンをデビュー戦に定め、1年間のトレーニングを経てスタートラインに立ち、見事フィニッシャーとなった。

初アイアンマンは2006年マレーシア。そこでスロットを獲得し、同年のアイアンマンハワイに出場を果たす。テレビで観たあの舞台である。コナウィンドに苦しめられながらも13時間23分で完走し、コナの虜になった。以来5度の出場を果たしている。「コナに勝るトライアスロン体験はないですね。あの舞台に立てる誇らしさもあるし、何よりもあの雰囲気。真っ暗な中をずっと走り続けて辿り着くゴールエリアのあの盛り上がりと熱気。それはもうクセになりますよ。一度走ったら絶対また戻ってきたくなる」と中川さんはその魅力を熱く語る。

コナの磁力は彼の生きる力にもなっていった。2016年、バイク練習中にトラックと衝突。轢き逃げだった。左肩甲骨の複雑骨折と左肋骨のすべてを骨折、それによって肺水腫となる大怪我を負い、2ヶ月の入院と約1年のリハビリ生活を送ることを余儀なくされた。「周囲からは、もうトライアスロンは無理だろうと言われました。70代でしたからね。でも僕は絶対復帰してみせると思ってました。入院中も歩いたり階段を上ったりして筋力を落とさないようにして。看護師さんには怒られましたけど(笑)」

そんな時に一番力になったのはトライアスロン仲間の励ましだった。中川さんの競技復帰を心から応援し、励ましてくれる盟友たちのためにも、復活してロングを完走したい。その一心でリハビリを続け、2018年の長崎五島トライアスロン(S3km, B154km, R42.2)を完走。ゴールには大勢の仲間たちが待ち構え、中川さんの完全復活を祝った。「ああこれでまた、好きなトライアスロンができるって思って嬉しかったですね。僕にとってのトライアスロンはやっぱりロング。だから、ロングの大会で復活できたことは大きな喜びでした」

翌年には再びスロットを取り、コナを16時間27分52秒で完走。さらに2022年のアイアンマンマレーシアでもエイジ1位に輝き今回のニースの出場権を得た。ニースはおろか、欧州を訪れるのが初めてだという中川さん。未知の土地で未知のコースにどう挑むのか。

「初めて走るコースですから、どこまで行けるかは正直わからないです。バイクコースの登りがきついと聞いてますしね。90kmまで行けたら、なんとかなるんじゃないかなと思ってますけど」と笑う口調に気負う様子はまったくない。来年80歳を迎える彼。「正直、こんな歳まで続けられるとは思ってなかったんですけどね、まだやれていますし、体もなんとか動いていることに驚いています。ただ、この年になったら1年、1年が勝負。来年のことは、今年の大会が終わってから決めようと思っています」

中川さんの挑戦の歴史に、また新たな1ページが加わっていく。

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